主任教授 挨拶

獨協医科大学医学部 埼玉医療センター 放射線科 主任教授 久保田 一徳
埼玉東部の高度医療を担う
獨協医科大学埼玉医療センターは獨協医科大学の附属病院の一つであり、かつては「どっこし」(旧称:獨協越谷病院)の呼び名で親しまれていました。昭和59年に237床で開院し、現在では928床を有し、埼玉県越谷市を拠点とする高度医療機関として県東南部約200万人の地域をカバーする急性期病院となっています。大学病院として医学教育・研究にも注力しながら、がん診療や各診療科のなど幅広い専門的診療を提供しつつ救急医療や多くのcommon
diseaseの診療も行っています。首都圏からのアクセスが良く、北千住駅から15分の新越谷駅前という立地も相まって、都会型大学病院としての機能と地域医療の中心的役割を併せ持つ病院といえます。
当院の放射線科では、CT、MRI、核医学(RI)をはじめとする各種画像診断に加え、放射線治療やインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)を活用し、各診療科と連携しながらがんの診断・治療に取り組んでいます。
放射線科の役割と業務負担軽減
私は2019年に東京医科歯科大学(現在の東京科学大学)から獨協医科大学に異動し、2021年より埼玉医療センターに主任教授として着任しました。着任当時の放射線科は診断医4名・治療医2名だけであり、読影業務のほかIVR、教育、研究と多岐にわたる業務が重なり、大きな負担を抱えていました。現在はほぼすべてのCT・MRI・核医学検査の読影を放射線科で行っていますが、当初は全体の半数程度、読影依頼分のみの読影しかできていませんでした。
このような状況のなか、業務環境の改善を喫緊の課題と考えました。当科の医師の多くが子育てや介護といった個人的な事情を抱えており、安心して仕事も生活も継続できるように、在宅で遠隔読影ができる環境を構築しました。
画像診断センターの設立と今後の展望
読影のスピードが上がるにつれて診療科からの依頼が増加し、より多くの症例に対応する必要が生じました。特に、緊急性の高い症例やインシデンタルな所見を含む症例では迅速な対応が求められ、業務量の増加がさらに加速しました。しかし、スタッフ皆が協力して仕事を行い、また同窓の先生方の応援や当院への入局者の増加もあり、次第に読影業務の円滑な運営が可能となりました。その結果、他科の医師からも「読影が早くなり助かる」「見落としそうになった病変を見つけてもらえた」といった評価の声をいただくようになりました。
こうした取り組みを受け、2023年には院内に画像診断センターが設立されました。現在は、院内の画像診断体制の強化だけでなく、大学全体および地域の関連施設との連携を進めることで、より広範囲な医療支援を実現しようとしています。
専門領域の診療:放射線科医のもう一つの顔
中央診療部門としての読影体制が整ってきたことで、専門領域の診療にも注力しています。とくに乳腺診療においては、乳腺外科や超音波センターと協力して、診療科だけでは診断が困難な症例にも対応しています。専門的なマンモグラフィやMRIの読影技術とあわせて放射線科医自らが超音波を行い、組織診断(超音波ガイド下の他、MRIガイド下での生検まで)や術前のマーキングまで行っています。このように、読影だけでなく、個々の症例の診断のすべてを担うことができることにより、高度な診療を行っています。
また、CTガイド下生検や各種のIVR手技、画像診断と密に連携した精度の高い放射線治療など、様々な取り組みを行っています。
放射線科として、カンファレンスなどを通じた他科とのコミュニケーションを大切にしつつ、精度の高い読影を提供することで医療チーム全体の質を向上させることを目指しています。
一緒に働きましょう
この数年間で大きな変化を遂げた放射線科ですが、これからもさらに工夫を重ねて発展していきます。
・長時間の読影による身体的負担を軽減するため、専用の昇降式デスクを制作し、立った状態での読影を可能にしました。これにより、良好な姿勢を維持しながら効率的に業務を進めることができ、腰痛や肩こりの軽減にもつながりました。さらに、立った状態では他の医師と画像を共有しながら議論しやすくなるため、教育やカンファレンスの質の向上にも寄与していると思います。
・読影の効率を図るために、AIによる音声入力によってマウスでの画像スクロール操作と読影所見入力を同時に行えるようにしています。
・AI(人工知能)の導入も積極的に行っています。現在は主にCTでの肺結節の抽出にAIを使用しており、見落としを防ぐだけではなく、レジデントが一次読影する際に自分でチェックもできるため教育的な点からも役立っていると考えています。AIは放射線科医の仕事を奪うものではなく、AIをうまく活用して画像診断を行えるようにしていきたいと考えています。
・長時間のディスプレイ閲覧は避け、適宜目を休めることも重要です。読影室から15歩ほどの距離にあるスターバックス(世界で一番読影室から近いかもしれません)でコーヒーを買いに行くことで、適度なリフレッシュを図っています。
こうした小さな工夫の積み重ねが、業務の持続性を高めるうえで有効であると実感しています。なにより、一人で仕事をおこなうのではなく、みんなで一緒に問題を共有し、患者さんを助けること、そして未来の患者さんにもつながるように教育・研究を発展させていくことが大事だと思っています。ダイバーシティ・多様性という言葉だけでなく、それぞれが思いやりながら、やりがいをもってできることをやっていく、そんな放射線科であり続けたいと思っています。